精神障害者の「異質性」
精神障害者の「異質性」は何に由来するのか、考えてみました。
「どう接したら良いか分からない」と就職活動をしていて企業の担当者さんの言葉として、就労支援センターの担当者さんやエージェントさんから伝えられます。屹度、私の友人たちもその点を苦慮しているのだと思います。
身体障害や知的障害と、精神障害が絶対的に異なる点があります。精神疾患は視覚的実世界に存在していないということです。精神障害は「脳の疾患」と言われるように脳内で何らかの不具合が生じて、気分・感情・行動などに歪みが生じるものです。行動は目に見えますが、それは疾患に依って引き起こされた症状であり、疾患それ自体ではありません。また、精神疾患は個人毎に症状と見做される程度が異なります。例えば、元来のプレイボーイが幾ら女遊びをしてもその人の性格ですが、誠実な人が派手な女遊びをしていたら性的逸脱という症状かも知れません。つまり、精神疾患は目に見えないだけではなく「症状」も一般的にはそうであるということは分かっているものの、症状か否かは個別検討が必要であり非常に分かり辛いです。
視覚情報の優位性はご存知の通りで、8割以上になるとのデータもあります。精神障害者を一目で精神障害者であると認知することは出来ないので、外見的には健常者と同じです。しかし、症状が出た時の症状としての行動が健常者とは異なり、日常生活に支障をきたすために障害者なのです。
木を見たとき、それが楠であろうとイチョウであろうと「木である」と人間は判断できます。これはプラトンによればイデアがあるからなのですが、私はそのイデアの根源は外的世界における視覚的情報に依るものだと考えます。
精神障害者には外見上のイデアがありません。イデアは基本的には存在論におけるものですが、認識論における観念論においてイデアを考えると、観念論とは、パークリが主張したものもありますが、ヘーゲルからショーペンハウアーに進んで、すべて人間が認識するものは思考におる観念の所産であると考えるものであり、観念的・精神的なものが外界とは独立した地位を持っているという確信を表します。木なら木のイデアを、コップならコップのイデアを持っていて、その外界にあるイデアを認知することによって観念が生まれます。この観念が結実したものが認識です。
そのような外界における視覚情報が精神障害者にはありません。しかし、健常者とは違う。それが異質性に関わるのだろうと思います。
視覚的に障害者だと判断出来るのは、身体障害や知的障害、発達障害などでしょうか。精神障害者の中にはそのような「見てわかる」障害を、引け目を感じながらも羨ましく思うと表明する方もいらっしゃいます。それらは視覚的に自明な障害であれば、配慮すべき点も健常者は何となく想像が付くけれども、精神障害者は一見すると健常者と同じであるため、「どのように接したら良いか分からない」という健常者の意見に繋がるのでしょう。
つまり、精神障害者には視覚的優位性が役に立たないというわけです。それなのに症状として目に見るようになると、健常者とは圧倒的な、そして病的な違いがある。そこに健常者は戸惑いを覚えるのだと思います。
昔の恋人に「症状だとしても君が行ったことだから、君の責任だ」ということを言われたことがあります。症状によるものだから私の本意の行動ではないため、この言葉には非常に苦しみましたが、健常者としては正常な反応です。人が他者を行動で判断するのは当然のことだからです。しかし、それは症状によるものであって、その人固有の性質によるものではない。責めるべき対象が見えてこないということも精神障害の厄介なところだと思います。双極性障害では躁状態での言動を強く叱責されると、その後のうつ状態が悪化すると言われています。うつ状態で「死にたいなんて言うな」「甘えだ」と言われたこともあるのですが、それも症状の悪化に繋がりました。ですが、症状であっても行動した本人に対して何らかの思考を抱くのは当たり前のことであり、それによるフラストレーションをぶつける先もその精神障害者でしかないのです。
精神障害者である私自身、どこからが症状でどこまでが本来の自分であるのか分かりません。調子が良くても軽躁状態かもしれませんし、憂鬱な気分であってもうつ状態の始まりかもしれません。単なる正常な気分変動の可能性もあります。その症状と正常な状態の線引きが出来ないということも、精神障害の難しい点なのだろうと思います。
症状が出ていなければ精神障害者は健常者とほぼ同じです。勿論、毎日の服薬は必須ですし、周囲の配慮が必要であることや何らかの契機によって症状が現出する可能性はあります。でもフラットな状態を維持できているその限りでは、気分や感情や行動にあまり違いがありません。
このように患者自身も理解できない障害を、健常者が理解できる訳がないのです。視覚的優位性による判断が出来ないことを中心として、症状と正常の範囲であるかの明確な線引きが不可能であることと、症状が出ていなければ健常者とほぼ同じようであること。それらが精神障害者の「異質性」を際立たせているのではないでしょうか。
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